たのしい幼稚園

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  はじめてのおつかい・2  

 ガーデンが騒然となったのは、無理のないことだった。
 憤怒の形相のサイファーが廊下を疾走する。その後ろに続くはスコールで、さらにその後ろにキスティスが続く。
 ガーデンの有名人が殺気を隠すことなく疾走するのだ、何かあったと思わないほうがおかしい。
「サイファー、スコール! 皆殺しにしてはだめよ? 一人くらいは残しておくのよ!」
「いつになく過激じゃねぇか、センセイ」
「ゼルを心配してるのはあんただけじゃないってことだ、サイファー」
 彼等はガーデンの最新型の車両を強奪すると、セルフィの寄越した彼等のアジトへと向かった。
 当然、暴走運転である。
 何人かの善良なドライバーが異議申し立てをしかけたのだが、サイファーとキスティスの鋭い眼光に射竦められ、石化したのはいうまでもない。

 そのころ、ゼルと一緒にテロリストのアジトにいるアーヴァインとセルフィは、テロリストたちの心配をしていた。
 ゼル奪還を幾度も試みているのだが、相手は物凄い人数である。流石にセルフィと二人だけではどうしようもない。
 何せ、ガーデンを襲撃するつもりで武装して結集していた連中なのだから。
「それでも……一刻も早くゼルをここから連れ出さないと」
「あの人たち、怒り狂ったサイファーはんちょにボコボコにされちゃうね〜」
「そうなんだよね〜……きっと、スコールもキスティも、怒り狂ってるだろうから……」
 テロリストどもは人質の選択を誤った。
 可愛い可愛いゼルを奪われた彼等の怒りは尋常ではあるまい。この組織は洩れなく壊滅状態に追い込まれるに決まっている。
 一分一秒でも早く、ゼルをサイファーの元に戻さねばならない。
「ああっ、ゼル、おでこにけがしてる!」
 サイファーを探し求めてなくゼルをあやしていたセルフィが、ふいに絶望的な声を上げた。
 慌てたアーヴァインがゼルのつるんとした額を見る。なるほど、ちょっとだけ赤く腫れている。
「大変だ……ここどうしたの?」
「あのねっ……へんなおじちゃんにがつん、したの」
 ゼルの顔が一瞬苦痛に歪む。
 アーヴァインの脳裏を嫌な予感がよぎった。
「なんで?」
「んと、お洋服とられそうになって、お腹ぺたぺたされてきもちわるかったから」
 アーヴァインの瞳に怒りの炎が灯った。
「どこだ、そのヘンタイエロオヤジは!」
「あ、いたいた〜。そこの床に伸びてる〜」
 セルフィがぴょんぴょん跳ねて、ゼルのヘッドショックをくらって伸びている男の傍に駆け寄った。
「ちゃんとお仕置きしとかないとね〜」
「そうそう。僕たちがサイファーに酷い目にあわされるからね。ゼル、ちょっとあっち向いててくれるかな?」
「うん」
 ぐう、とか、ぐえ、とか、気の毒な声が立て続けにし、ゼルにちょっかいを出そうとした、愚か極まりない男は目出度くセルフィとアーヴァインによって成敗された。
 
 一方、テロリスト達は己等の勝利を確信していた。
 偶然の産物とはいえ、SeeD二人とガキ一人を人質にとったのだ、自分達が有利に決まっている、と信じていた。
 さらにアーヴァインとセルフィが抵抗らしい抵抗をしないので、彼等は弱いのだと思い込んでしまった。
「けけけけけ、ガーデンが俺たちのものになるのも、時間の問題ですな、小隊長!」
「ひゃっひゃっひゃ! 金を持ってくるSeeDの目の前で、あのガキを一、二発殴ったれや! 差し出す額が跳ね上がるかもしれんぞ」
「ぎゃっはっは、そりゃ天国ですな!」
 彼等はこのわずか数分後、地獄を見ることになる。
 話を盗み聞きしていたセルフィは、こんな間抜けどもがよくテロリストとして活動できたものだと、変なところで感心していた。

 サイファーが車から飛び降りた瞬間。
「あっ、さいふぁ!」
 テロリストの腕に囚われたゼルが、甲高い声を張り上げた。
「チキン!」
 怒号を放つサイファーから遅れること数歩、スコールとキスティスも姿を現した。
「はなせっ、さいふぁのとこ、かえらないと、おつかい、おわらないのー!」
 ゼルの「おつかい」という単語に誰もが疑問符を頭に浮かべた。
  「おい、チキン、おつかい、たぁなんだ?」
「せふぃとあーば……あーび……あーに、おかし、とどけたの! ひとりじめは、いけないのー!」
 それで一人歩きをしていたのか、と、一同が納得すると同時に、サイファーの怒号が炸裂した。
「おい! ガキの大事な成長を邪魔立てすんじゃねぇ! これでチキンがお使い行けなくなって見ろ、てめぇらの責任だからな!」
 ゼルを捕まえていた男は一瞬うろたえた。
 笑い飛ばすに笑い飛ばせない。はじめてお使いに出たところを拉致された子供の精神的ダメージは計り知れない。この子供は二度と、一人でお買い物に行けないかもしれない。
 己を抱える男の意識が自分からそれたのを敏感に感じたゼルが激しく手足をバタつかせ始めた。
「さいふぁのとこ、かえるの!」
「おっといけねぇ、逃がすかよ。大事な金蔓だ。……にしても、可愛がられてんだな、お前」
 ぺたぺた、と顔を触られて、ゼルが盛大に泣き出した。
「汚い手でゼルに触るな!」
 珍しくスコールが怒りを露にする。
 同時にキスティスの理性もぷつんと切れた。彼女の武器が唸りを生じてテロリストの顔面を強打する。
 地面に放り出された格好となったゼルを、どこからか走り出てきたセルフィが地面につくスレスレで掬い上げる。
「ゼル救出かんりょ〜!」
「セルフィ、ゼルをつれて車にもどれ」
「え?」
「そうね。ゼルにこれから起こる惨事は見せたくないもの」
「セフィ、頼んだよ〜」
 戦いたかったな、と愚痴を零しつつ、セルフィはゼルをしっかり抱えて車へと一足先に乗り込んだ。

 テロリスト達は、己等の所業を深く深く悔いたに違いない。
 自分達は暴力と破壊のプロフェッショナル集団だと信じていたのだが、それがわずか、数人のSeeDによってあっけなく壊滅させられてしまったのだ。
 SeeDたちは皆、特殊技を次々と繰り出してくる。
 怒りやウラミがたっぷり詰まったソレはおそらく通常の数倍もの威力を持っていた。
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