たのしい幼稚園

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  真夜中の育児相談  

 先日の『おつかい』騒動以降、ガーデンはひっそりと危機的状況に陥っていた。
 テロリストを駆除し終わった一同が帰路の相談をしていたところ、件のモンスターが出没したのだ。
 咄嗟にスコールが応戦し……毒を浴びて幼児になってしまった。
 幸い、ゼルと同様スコールも戦闘の感覚を失っていなかったため、翌日からすぐに任務に連れていけた。

 「ったく、とっとと解毒剤を開発しやがれ!」
「同感だよ」
 真夜中のガーデンの廊下を、長身が二つ歩いていく。
 彼等の足取りはとても重く、疲労の濃さを物語っている。そしてそれぞれ腕に荷物を抱えている。
「僕、これで子連れ任務連続五回、だよ……」
「俺も似たようなもんだな」
「こんなちっちゃいのに、任務に狩り出されるのも、可愛そうだよ」
「同感だな」
 アーヴァインとサイファーの意見がここまでぴたりと一致するなど、非常に珍しいことではある。
 が、この際、誰も驚きはしないだろう。
 誰に聞いても、同感だ、と言うに決まっている。
「まだ遊びてぇ、と泣くのを宥めて任務に連れ出すだけで疲れるしな」
「折角出来た年少クラスのお友達もね……」
「今週、何度チキンが泣いたことか」
「スコールも拗ねてクローゼットに閉じ篭ってねぇ」
「ヤツらしいじゃねぇか」
 子供同士の友情というのは、それはそれでなかなか難しいらしい。

 「けどさ、なかなか大きくならないね〜」
 アーヴァインが何気なく呟いたセリフに、サイファーの足がぴたりと止まった。ここ暫らく感じていた違和感の正体がわかった。
 ある程度の日にちが経ったというのに、腕の中にあるぬくもりは、新種のモンスターの毒を浴びてから一ミリも成長していないのだ。
 そっちはどうだ、と顎をしゃくればアーヴァインが頭を横に振る。
「とっととデカくなりやがれ。ったく……」
 腕の中ですやすやと寝るゼルに向かって言ってみるものの、さいふぁ、と可愛らしい言葉が返って来るのみ。
 それを聴いたアーヴァインがゼルをひょい、と覗き込む。 
 ゼルの小さな手は、しっかりとサイファーのコートの襟を握っている。
「いいなぁ、君のとこは無条件に可愛くて」
「ああ?」
「見てよ、これ」
 アーヴァインが腕の中に抱えたスコールを顎で差す。覗き込んだサイファーがなんだこりゃ、と顔を顰める。
 スコールの眉間にはくっきりと皺が刻まれ、整った美貌が苦しげに歪んでいる。見たところ、体にも力が入っているようだ。
「抱き方が悪いんじゃねぇか? チキン、悪ぃな」
 サイファーは器用にゼルの指を外してアーヴァインに渡し、スコールを受け取り、ぽんぽん、と背中を叩いてやる。
 と、途端に眉間の皺が消え去った。
「……なんで〜?」
「さぁな。ただな、チキンは俺のキモチに敏感だぜぇ? 俺が苛立ってるときは泣きやがるし」
「へぇ? じゃあ、スコールが拗ねるのもそれかなぁ」
「おそらくそれだな」
 
 「あの二人、真夜中の廊下に突っ立ってなにやってるのかしら」
 キスティスが呆れたようにサイファーとアーヴァインの背中を見つめる。
「ん〜? 育児相談じゃな〜い?」
「なるほどね」
 クスクス笑いながらセルフィが言う。
「アービン、スコールの子育てに苦労してるもん」
「アーヴァインが苦労して、サイファーが苦労してないのが不思議だわ」
 
 背後で言いたい放題言われているとは露知らず。
 『新米パパ』の二人は熱心に『子育て』についての情報交換をしているのだった。
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