たのしい幼稚園

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  おなまえは?  

 ガーデン内で迷子になったとき。
「さいふぁのおへや」
 ガーデンの外で迷子になったとき。
「がーでん」
 よどみなく答えるようになった推定4歳……いや、もっと小さいかもしれない……ゼルは、ドッグタグが大変気に入ったらしい。
 サイファーの膝の上に座って小さな指でそれをなぞったり眺めたり。
 お陰で、ゼルにとってひどく退屈な会議の間も、大人しい。
 が、ふと思いついたらしく、背後のサイファーを仰ぎ見る。
「ねぇ、さいふぁ」
 どこか懐かしい、甘ったるい声に、サイファー以外のメンバーの頬も、自ずと緩んでくる。
「なんだ?」
「これ、おなまえ?」
「おう、そうだぜ、チキン」
「そうなんだ」
 へぇ、と嬉しそうに名前をなぞるゼルを見ていたキスティスが口を開いた。
「サイファー、名前は大丈夫よね?」
「ああ?」
 セルフィが妙に嬉しそうな顔で言う。
「お名前はって聞いたら、さいふぁって答えたりして〜」
 まさか、と全員が笑ったが、すぐに笑い声が止んだ。それとは違う、いやな予感がする。
「……ねぇ、きみのお名前、いえるかな?」
 アーヴァインが恐る恐る、ゼルに尋ねた。ごくっと全員が喉を鳴らし、ゼルを見る。
 満面の笑みでゼルは答えた。
「ちきん!」
 やっぱり、と、ため息が一斉に漏れ、サイファーに冷たい視線がぐっさぐっさと突き刺さる。
 サイファーの顔が引き攣った。
「……流石に何もいえない、ってところだね」
「ちっ」

 「ちきん、ちがうの?」
「お前はゼル。ゼル・ディンだ」
 スコールが微笑を浮かべて正解を教えてやる。
「ほら、言ってみろ」
 スコールに促されておずおずと口を開くゼル。
「ぜる……ぜる・でぃん」
 赤くぷっくりとした唇から名前が紡がれる。
 そうだよ〜とアーヴァインがサイファーの膝の上からゼルを取り上げる。
「ゼル、僕はアーヴァインだよ〜。言える?」
「あー……あーば……?」
「ちょっと難しいよね。じゃあ、アービン……うーん、アーでいいよ〜。私は〜セフィね〜、こっちがスコールで、こっちがキスティ」
 複雑そうな顔をするアーヴァインを綺麗に無視したセルフィが次々と名前を教えていく。大真面目な顔でそれを復唱するゼル。
 まるで、年の離れた姉弟のようで、ちょっぴり微笑ましい。
「うんと、せふぃ、あー、きすてぃ、す……すこっ!」
 スコールが微妙な顔をしたが、やっぱりセルフィはお構いなし。脱力したスコールの肩を、アーヴァインが軽く叩いた。
 良く出来ました、とキスティスに頭を撫でてもらってご満悦のゼル。
 今度はスコールがゼルを抱き上げ、床に立たせた。ゼルに目線をあわせ、方膝をつく。
「では復習だ。名前は?」
「ぜる・でぃん」
「所属は?」
「んっと、ばらがーでん」
「惜しい、バラムだ、バラム」
「ばらむがーでん」
 無愛想の見本のようなスコールが笑顔を見せる。さすがゼルである。
「それだけ言えれば大丈夫だよね、しゅっぱ〜つ!」
 セルフィが元気良く拳を突き上げたのにゼルもつられる。
「おいおい、テメェ、今から何するかわかってんのか?」
「う?」
 う、じゃねぇよ、と、サイファーが苦笑した。
 
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