一味違うぜ!

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 気だるい体をベッドに預け雨の音を聞きながら紫煙を燻らせていたサイファーは、ゼルの口から飛び出したセリフに、危うく煙草を取り落としそうになった。
「なぁ、サイファー、もう一回シよ?」
「……あ?」
「今度はさ、サイファーに負担掛けないよう、俺が頑張るから」
 全裸にシーツを巻きつけたゼルが、ジリジリとサイファーに迫ってくる。
 その首筋や胸元には、サイファーが先ほど刻んだばかりの所有の証が艶かしく存在している。
「いい加減にしとけ」
「いいじゃん……」
「良くねぇ! いい加減テメェは肉体を酷使しすぎてんだ。これ以上ヤって商売道具の体が使い物にならなくなってみろ……んんっ!?」
 サイファーの小言はゼルからの噛み付くような口付けで封じられた。
 無理矢理突入してきたゼルの舌はサイファーの舌を求めて散々に暴れまわる。その際、ご丁寧にサイファーの胸の飾りを弄るのも忘れない。
 サイファーの唇から溢れた唾液がぽたりと太股に落ちた。
(誰だ、チキンにこんな荒っぽいのを教えやがったのはっ!)
 ゼルが聞いたら間違いなくあんただ、と答えるに違いない。いや、ゼルでなくとも、百人が百人、サイファーだと言うにきまっている。
 ようやく満足したゼルがサイファーの唇を開放したとき、柄にもなくサイファーは酸欠で頭がクラクラしていた。
 どこか焦点の合わない目でゼルを探せば、猛獣のようなゼルが直ぐ傍にいた。
 それを見た瞬間。
 本当に信じがたいことだが、サイファーは己の身の危険を感じてしまった。
 軽く掌でゼルを牽制しつつ、それでもまじまじとゼルを見て考える。
 一体何なのだろう、この差は。サイファーは十分満足したし、ゼルを堪能して少々の気だるさも感じている。だからゆっくりと寛ぎたい。
 それに、ゼルの体も心配だ。自分の抱き方は決して優しくはない。いや、酷い、の部類に入るだろう。
 なのにゼルは。
 アレだけ鳴いて善がって気絶寸前まで行っていながら、これだ。
(年の差か? それとも鍛え方の差か?)
 どちらも、それほどの差はない、と思いたい。ゼルの方が若干の体力馬鹿、筋肉馬鹿な気がしなくもないが……。それとも、激しい戦闘の余韻で興奮しているのかと思ったが、ゼルほど戦闘経験豊富なSeeDがそれもないだろう。
 我武者羅に飛び掛ってくるゼルをどうにかこうにかベッドに押さえ込み、深呼吸をしてから言葉を紡いだ。 
「……その体に快楽を教えたのは俺だ」
「そうだぜぇ」
「理性の箍が外れるよう、さっき散々抱いたのも俺だ」
「わかってんじゃん」
 ゼルの手が、半分頭をもたげているサイファーの雄を握ろうとするのを、寸でのところで押さえてゼルと指を絡めて雄から引き離す。しかしそれだけでゼルの眼がとろん、としてくるのが、なんとも愛おしい。
「だがな……程度ってものを、覚えてくれ」
「なんだよ、節操なし、限度なし、手加減なしのアンタに言われたくねぇよ……なぁ、いいだろ、あと一回だけでいいんだ」
 語尾や表情がどうにも艶っぽい。これでサイファーが煽られないわけはないのを解っていてやっているのだから始末に悪い。
 そしてその通りに、愛するゼルの痴態を目の当たりにして、すぐさま押し倒し突っ込みたい衝動がサイファーの体中を駆け巡る。
 が、サイファーは心を鬼にした。
「『欲』を全部性欲に摩り替えてんじゃねぇ! 単純チキンが!」
 盛大に怒鳴った。
 が、ヤることで頭が一杯のゼルは、そんなことに怯みもしない。
「何言ってんだよ。ちゃんと食欲と睡眠欲は自分で満たしてら。今日の任務は終わっちまったし、雨続きで外で運動できねぇし、何もねぇ辺鄙な村にあんたと二人派遣されて三日もたっちまうし。せっかくだから、アンタと運動しようって言ってるだけじゃねぇか」
「……もう十分に運動しただろが」
 アンタだけな、俺まだ満足してねぇもん、と恥ずかしげもなく笑うゼル。
 その笑顔と色香に簡単に流されそうになる己を叱咤激励してサイファーはことさら渋面を作って見せた。
「いいや、駄目だ! とっとと服を着ろ!」
 床に散らばっているゼルの服を拾って押し付けながら、サイファーはなんだか情けなくなってきた。
 恋人が自分を求めてくれるなど、嬉しいことではないか。
 なのにそれをせっせと拒絶しなければならないなど、どういうことなのだ。それもこれも、快楽に溺れきって、他の事が全く手につかなくなったゼルが悪い。そうに決まっている。
「ったくよ……俺はべつに憎くて言ってるわけじゃねぇんだ」
「サイファー?」
「快楽に溺れるのも悪くねぇ」
「じゃ、いいじゃねぇか。ヤろうぜっ!」
「だがな、腹八分目って言葉があんだろ。適当なところでやめるのもまた、一興だぜぇ? ま、オコサマなチキンにゃ、そんな大人な真似はできねぇかもしれねぇがな?」
 最後の部分をわざと挑発するように耳元で囁けば。
 瞬時に怒りで顔を真っ赤にしたゼルが、がばっと跳ね起きた。
「だれがオコサマだ、誰がチキンだ! やってやろうじゃねぇか!」
 よし、とサイファーは内心ほくそ笑んでいた。これでゼルの思考はヤることから逸れたはずだ。
「俺は大人だ! やってやれねぇことはない!」
 そうそう、と頷いたサイファー。これでゆっくり休養をとることができる、さて、チキンの夢でもみるか、とシーツに体を沈めたサイファーだが。
 今日のゼルは一味違った。
「大人だから、あんたを抱くぜ!」
 どこをどう考えたらそうなるんだ……サイファーは唖然として、やる気満々のゼルをただただ見るしか出来なかった。

<END>

……おかしいなぁ、コレじゃゼルに禁欲を薦めるサイファー、ですねぇ……。
当初の目的は、サイファーを求めて乱れるゼル、だったんですが……。
どこで道を踏み外したかな?(最初のゼルのセリフが悪かった……)







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