ひまわり

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 なぁ、知ってるか、と足元から声がした。
 声を追って視線を落とせば、いつのまに座り込んだのか、膝を抱えてまっすぐ遠くを見つめるチキンの姿。
「ああ?」
「ひまわりの、花言葉」
「花言葉? ひまわりにも、んなもんがあるのか。で?」
 ちょっと躊躇ったように身動ぎをしたあと、チキンが視線を上げた。
 蒼い瞳が俺を見つめる。
 そこに困ったような色が浮かんでいるのを見つけ、俺は反射的にチョコボを彷彿させるような頭に手を置いた。
「うん、このひまわり全部、あんたにプレゼントできたらいいのにって思ってさ」
 何を言い出すのだ、コイツは……。
 俺の視線の意味を正確に理解したチキンが微かに笑う。一体いつのまにこんな大人びた仕草を覚えたのか。
「あんた、俺のキモチ、どっかで信じてねぇだろ?」
「そんなこたぁ……」
「いいや。ビクビクしてんの、俺が気が付かないとでも思ったか?」
 思わず苦笑が洩れた。
 こう見えて案外鋭いんだよな、このチキンは。
 答えて見ろ、と蒼い瞳が俺を挑発する。
「咄嗟のことに反論する言葉がみあたらねぇ、ってトコだぜ、チキン」
「やっぱな」
 怒ったような拗ねたような呆れたような……まさに複雑な表情をつくるコイツは正直、かなり面白い。
「いや、別に疑ってるわけじゃねぇ……」
「ああ、わかってる。あんたは、いつか俺があんたから離れるだろう、って勝手に予測して。んで、離れるんならそれでいい、って思ってる。違うか?」
 やっぱり反論する言葉は見当たらず、呆れたようなため息しかでてこない。
 悔し紛れに、逆立てたトサカを思い切り引っ掻き回してやったら、牙を剥きやがった。
 そう、テメェはそんな仕草がぴったりだ……とは言えもせず。
「……で、それがひまわりとどう繋がるんだ?」
「ひまわり……の、花言葉は……」
 言いかけて、奴の頬が僅かに朱色に染まっていく。
「チキン?」
「……べろよ」
「ああ?」
「自分でっ、調べてみろってんだ!」
 そう叫ぶなり、カッコワリィ、と頭を両膝の間に突っ込んで。
 最愛のチキンは何かをブツブツと呟いている。
 わかったような、わからなかったような。そんな気分を持て余しながらチキンの隣に腰を下ろす。
 俺の目の前には、一面のひまわり畑が広がる。どれも立派に空を仰ぎ、しっかりと咲いている。ここまで育てるのは大変だっただろうことは、破壊が専門で育成だのとは無縁の俺にもわかる。
 ふと隣を見れば、悶絶し終わったらしいチキンが、もう普段の顔に戻ってひまわり畑を見ている。
「これを焼き尽くそうだなどと企む奴らの気が知れねぇよ。こんな綺麗なのにさ」
「ああ、そうだな」
 花畑の見回りにSeeD2名も派遣とは大げさなと思ったが、実際、俺ら二人じゃ手が足りねぇ。
 花畑は異常に広いし、放火魔は毎晩毎晩集団で襲ってくる。昨夜辺りから敵も学習したらしく、いくつかのグループにわかれて放火しやがる。
 そうなったら、困るのはこっちだ。火の手が上がったと同時に駆けつけ、犯人をチキンが殴り倒して縄で縛り上げて地元の警察に引き渡のが一連の作業だ。
 帯剣してねぇ民間人相手に魔法やガンブレードはちょっと使えねぇってのと、俺らに逮捕権がねぇのと、こいつが此処に火を放ったっつー証拠がねぇと逮捕できねぇってのが困る。
 毎晩毎晩、畑のあちこちで次々とそれをやられちゃ、流石の俺たちもくたびれちまう。 
 幸い、昼間は出没することがないので、ぼんやりしていられるのが救いといえば救いか。
「なぁ、サイファー。こーゆーのを、のどかっつーんだよな。青い空に白い雲がちょこんとあって、んで、一面のひまわり。あんたと俺以外、誰も見あたらねぇ」
「そうだな。所々、畑が焦げてるけどな」
「気、気にするな」

 たまには、こんな任務も悪くねぇ。
 それも、傍にゼルが居るから、なんだが……コイツはわかっちゃいねぇんだろうな。



<END>

 

一人称ってこんなに難しかったっけー!?
と、喚いてしまいました。
ウチのサイファーはゼルが大好きな模様。
でもゼルがいつか自分から去り、お嫁さんを貰うのだと信じてます(笑)
管理人に一言(WEB拍手ではありません)

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