防寒をいたしましょう

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 「某、乱世というのが、信じられないような心地でござる」
 幸村がこう言えば。
「HA……同感だな」
 その隣に座っている政宗が答える。
 佐助や小十郎が聞いたら共に正座させられて延々とお小言を頂戴しそうな事を言う二人は、縁側で仲良く日向ぼっこの最中である。

 甲斐から同盟成立の使者として幸村たちが到着した日から連日降り続いた雪がようやく止み、今日は打って変わっての小春日和。
 キラキラと輝く雪を見ながら、縁側でのんびりお茶を飲んでいるのだ。
 それも、幸村がいつまでも庭を見続けるものだから、政宗が縁側まで出きた、というのが正しい。
「それから、これ着てろ」
「南蛮渡来の……合羽? 蓑でござるか?」
「ああ、魔王がつけてるやつと同じだ。あっちは装飾だがこっちは防寒具、保温効果がすげぇぞ」
「ほほう……」
 好奇心丸出しであちこちひっくり返す幸村の手からマントを取り、その体を包んでやる。その拍子に、政宗の手が幸村の頬や首筋に触れた。
「アンタ、すげぇ冷えてるじゃねぇか!」
「そうでござるか?」
 慌てた政宗は、襟巻きと綿入れと、火鉢をもうひとつ持ってきた。
 それをせっせと幸村の体に巻きつけていく。
「これはかたじけない」
 ぺこん、と頭を下げる様がなんだか可愛くて、政宗の顔に自然と笑みが浮かんだ。
「政宗殿は寒くないのでござるか?」
 もこもこと着膨れて、マントの上からちょこんと顔が出ている幸村
が首を傾げる様は、政宗の要らぬ欲を刺激する。
 だが、男同士で子を成す心配はないとはいえ、衆道など珍しくも無い世の中とはいえ、いきなり唇に吸い付いたり押し倒したりしては、やはりまずいだろう。
 いや、破廉恥でござる、と、泣き喚いて甲斐に逃げ帰られて、お館さまに伊達政宗は不埒で怪しからぬなどと訴えられでもしたら、戦になるかもしれない。
 小十郎にも、くれぐれも真田幸村に手を出さぬようにと、散々言われている。
(早まるんじゃねぇぞ……俺!)
 瞬き一つの間にそれだけのことを計算した政宗は。
 幸村と背中合わせに座った。
「HA、俺はこれで充分だ」
「そうでござるか?」
 ううむ、となにやら唸る幸村が、ふいに手を打った。
「そうだ、こうすれば良いのでござる!」
 気が付くと、政宗は着膨れた幸村にしっかり抱きしめられていた。
 せっかく理性を総動員して己の欲を押さえつけたというのに、と、政宗は苦笑せざるを得ないが、それでも、自然と頬が緩んでしまう。
「政宗殿、寒くないでござるか?」
「あ、ああ……あったけぇ……」
「よかったでござる!」

 実は、幸村は幸村で、このお慕い申し上げている浅ましい情を知られてはならぬと、懸命に堪えていた。
 だが、堪えきれぬ想いがほんの少しだけ零れてしまった。
(これ以上、これ以上近寄ってはならぬ)
 嫌われたくない。
 だが、焦がれる相手がすぐ傍に居れば、触れたくも成る。

 主の葛藤を、それぞれの臣は的確に見抜いていた。
「右目の旦那、なんだか面白いことになってきたね」
「ああ。まさか、真田幸村ともあろう者があんなにあからさまに政宗様に惚れるとはな」
「独眼竜の旦那と真田の旦那、どっちが先に行動に移るかな?」
「そりゃ政宗様だ。真田を押し倒すまで、あと僅かだろう」
「そうだろうねぇ」
 少なくとも、政宗に抱きついて蕩けそうな笑顔を浮かべている幸村に、政宗は押し倒せそうに無い。
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